高橋 龍三郎
研究活動の概要
2021年度は科研費研究の最終年度に当たり、研究の総括を図るべく以下の点に重点化して研究を進めた。
- 高橋が担当する中期から後期への社会変動に関するモデルを構築すること。できるだけ複数の因子をリストアップし、その根拠を考古学的に示すこと。
- 研究成果を一般、研究者間で共有できるようにシンポジウムを開催し、成果を発信すること。
- 縄文時代の氏族化にかかわる論文、研究書を執筆すること。
必要な研究協力者との連携を図り、意見の交換を含めて、研究課題に関する内容を付加する。 - 関連分野の拡充を図り、中心課題を支える周辺分野を拡充すること。
- ゲノム解析、同位体分析、古病理学的検討、材料分析などの成果と考古学研究の成果をすり合わせて、氏族制社会の成立に関するモデルの検証
上記1については環状集落の解体から後期の分散的小規模集落への移行過程をモデル化した。特に環状集落の成立過程を半族による双分制で把握し、配偶者の交換を前提とした構造であること、後期には婚姻形態が限定交換から一般交換へ変わったこと、出自が双系制から単系出自に変わったことを理論化した。上記2については私が主催するシンポ2件(『最新科学が解明する縄文社会』市原市教育委員会祇園原貝塚シンポ(9月25日)、『縄文社会を科学する』加曽利貝塚博物館シンポ(2022年1月10日))、中心をしめるシンポ3件(『山内清男コレクション受贈記念シンポ(2021年10月14日)』、『沢尻東原遺跡と縄文中期の社会と文化(2021年11月21日)』)を開催した。高橋も研究代表者として発表した。上記3については著書1件(3月刊行予定)、論文7本を執筆した。上記4では、明治大学の坂口隆氏と連携し、宮城県域、岩手県域における石剣石材の産地に関する研究を実施した。また千葉大学前講師の長山明弘氏と連携し、中期後半期の動物形象突起について事例を検討した。上記5については、縄文時代のトーテミズムの成立過程の解明のため、世界的な事例の収集に努め、比較検討した。上記6については、全部の資料、データを突き合わせることができる状態ではなく、少し時間がかかると予想される。データが出そろった段階で仮説モデルの検証に入りたい。
太田 博樹
研究活動の概要
聖マリアンナ医科大学・医学部にて保管されていた千葉県市原市の3つの貝塚遺跡(西広、祇園原、菊間手永)から出土した60検体について、頭蓋骨(側頭骨岩様部)の採取をおこなった(2019年)。これらのうち31検体からDNA抽出をおこない、MiSeq(Illumina社)によるプレ・スクリーニングをおこなった(2020年)。ヒトゲノム標準配列へのマップ率(=残存DNA率)を指標とし、これまでに高い残存DNA率を示した13検体について、NovaSeq(Illumina社)によるディープ・シークエンシングをおこなった。現在、この出力データ(核ゲノムおよびミトコンドリアゲノムの配列データ)のin silico解析を進めており、ミトコンドリアゲノムについては、13検体の全てについて高精度の完全ゲノム配列を得ることができた。これら配列データにもとづき、集団遺伝学解析および出土人骨間の遺伝的関係を分析した。その結果は英文原著論文として纏めている。
米田 穣
研究活動の概要
- 祇園原貝塚から出土した人骨60点の放射性炭素年代を解析し、海洋リザーバ効果の影響を補正した正確な年代を得る方法を確立した。この補正・較正年代に基づく、同時代の個体における埋葬地や埋葬法(合葬や副葬品)との関連を検討した。状態のよい合葬個体の年代は比較的近くなり、食生活も偏りがみられるが、部分骨の混入の場合は、年代が一致しないケースも見られた。さらに追加分析することで、食資源分配の偏りと社会構造が関連する可能性が示唆された。検討結果を論文としてまとめた(2022年3月論文集刊行予定)。
- 草刈貝塚出土人骨28点と菊間手永遺跡出土人骨25点の年代測定を実施した。
- 長野県保地遺跡出土人骨の放射性炭素年代測定を実施し、出土状況とあわせて検討した結果、1号墓址の多人骨集積葬が縄文時代後期後葉~末の比較的短時間に形成されたものであることを明らかにした。(「縄文時代」に共著論文投稿中)
- 向台貝塚で出土した埋葬イノシシについて炭素・窒素同位体比と放射性炭素年代を測定した。野生イノシシとの比較から、縄文時代におけるイノシシの管理についての議論を行った(「市史研究いちかわ」に共著論文投稿中)。
- Sr同位体比について、東京大学総合研究博物館での前処置と、東京大学理学系研究科でのMC-ICP-MS測定についてプロトコルを確立した。動物歯などで予備的な分析を実施した。
藤田 尚
研究活動の概要
2021年度は、依然として新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、研究活動も制限せざるを得なかった。そのような中で、千葉県市原市の西広貝塚出土人骨および祇園原人骨の古病理学的・形態学的調査を行い、ゲノム研究、同位体研究とコミットさせることができたことは大きな成果と言える。研究を進める過程では、所蔵先の教育委員会との友好的な関係を構築維持することが必要であり、その「種」も可能な限り蒔くことができたことも重要な成果と言えるであろう。また、市原市歴史博物館開館記念シンポジウムおよび千葉市加曾利貝塚博物貫特別研究講座で、共同研究者らとシンポジウムを持ち、一般市民の参加も得た形で古病理学の発表と啓発ができたことは、今後の継続的な研究に対して大きな意味を持つと考えられた。
池谷 信之
研究活動の概要
動物形土製品に用いられた粘土の選択性を検証するために、千葉市内野第1遺跡、市原市西広貝塚・能満上小貝塚・菊間手永遺跡の4遺跡から出土した動物形土製品と縄文土器・粘土塊を蛍光X線分析しその化学組成を求めた。その結果、内野第1遺跡では動物形土製品と縄文土器に異なる粘土が用いられていたことが明らかとなった。また粘土塊は1点のみの分析であり、その結果は慎重に取り扱う必要があるが、動物形土製品に近く、その製作のために用意された可能性がある。市原市内の3遺跡では内野第1遺跡ほど明瞭な化学組成の差が認められなかったが、判別図上での分布のズレが認められたことから、異なった粘土が用意されていた可能性は指摘することができる。
また祇園原貝塚出土の黒曜石については、これまでに22点の蛍光X線分析による原産地推定を実施しているが、さらに40点を追加分析し、高原山産主体(30点)に信州系(23点)と神津島産(9点)が加わるという原産地組成を示すことができた。