高橋 龍三郎
研究活動の概要
2020年度研究状況本年度は新型コロナウィルスの拡大により、主だった研究計画が十分に完了しきれたとは言えないが、それでも社会人類学などの文献調査により多くの知見を得た。その主な活動事項は以下の通りである。
文献資料の調査
- 縄文中期の双系制社会の実態について、東南アジアなどの事例を検討することができた。
- 双系制出自から単系制出自への変革について文研調査により、若干の知見を得ることができた。
- 先祖祭祀と単系出自制度の有機的な関係性を考えることができた。
- 縄文時代後期におけるトーテミズムの事例について、さらなる追加の資料を得ることができた。
- 縄文中期の土器に見る動物意匠の発生と変容について検討した。
- 社会の複雑化・階層化過程における「祭祀・儀礼」の果たす役割について文研調査を実施した。
- 縄文中期の環状集落における双分制組織(半族)について、長野県埋蔵文化財センターの招きで辰野町東沢尻遺跡の環状集落などから検討した。
- 東北地方における住居、土壙墓群の在り方に見る血縁系譜について検討した。
- 社会の複雑化・階層化過程を推進するエンジンとして「祭祀・儀礼」の他に、「呪詛・魔術」などの脅迫的慣習が影響を与えることについて検討した。
学会等への出席
以下の研究集会、研究発表会に出席し、縄文時代中期の土器型式に関する知見を深めた。
- 千葉市加曽利貝塚博物館が主宰する「加曽利貝塚博物館考古学講演会」(第1回)(2020年7月)
- 千葉市加曽利貝塚博物館主宰の「第2回加曽利貝塚博物館講演会」に出席。
- 山梨県考古学協会が開催する「縄文部会研究会」(12月22日)のZoom会議出席。
太田 博樹
研究活動の概要
2019年までに3つの貝塚遺跡(西広、祇園原、菊間手永)から出土した60検体から側頭骨岩様部の採取をおこない、31検体からDNA抽出、汎用型次世代シークエンサー(イルミナ社MiSeq)をもちいたプレ・スクリーニングの結果、高い内在DNA率を示した9検体について、NovaSeqによるdeep sequencingをおこなった(2019年度先進ゲノム支援)。この出力データのin silico解析を行った。
西広7-2、祇園原3−3、菊間手永52-2について、それぞれ23.5、6.0、4.3x平均カヴァレジのゲノム配列が得られた。
米田 穣
研究活動の概要
- 昨年度採取した西広遺跡の散乱人骨について放射性炭素年代測定をすすめ、晩期層から出土した散乱人骨に後期人骨が混入していることを見出した。放射性炭素年代測定によって時期決定した資料で後期と晩期を比較し、先行研究で指摘された時期差は認められないことが見出した。千葉県中央博物館の協力を得て、草刈貝塚から30個体、矢作貝塚6個体、三輪野山貝塚9個体、余山貝塚41個体、中沢貝塚1個体、大寺山洞穴9個体から骨資料を採取した。聖マリアンナ医科大の協力を得て、菊間手永遺跡人骨64点を採取した。コラーゲンの抽出を開始し、順次、炭素・窒素同位体比を測定する。
- 市川市権現原貝塚人骨13点でエナメル質炭素・酸素同位体比を測定した。骨コラーゲンの炭素・窒素同位体比との比較から、食生活の変化について検討できることを確認した。
- 向台貝塚からイノシシ、イヌ、シカ、オオカミの骨資料を採取した。
- 前処理の有無によって、ストロンチウム同位体比が一致しない可能性が明らかになった。
- 千葉県中央博物館の協力を得て、草刈貝塚から30個体、矢作貝塚6個体、三輪野山貝塚9個体、余山貝塚41個体、中沢貝塚1個体、大寺山洞穴9個体で骨コラーゲンの炭素・窒素同位体比を実施し、遺跡による多様な食生態を明らかにした。聖マリアンナ医科大の協力を得て、菊間手永遺跡人骨64点で骨コラーゲンの炭素・窒素同位体分析を実施した。データが得られた59点を比較すると、ひとつの遺跡のなかで個体の食性はきわめて多様であることを見出した。祇園原貝塚人骨59点で放射性炭素年代測定を実施した結果、未較正放射性炭素年代で600年近い時間幅の人骨群であることが示された。
- 保地遺跡ならびに権現原貝塚から人歯エナメル質・歯根部を採取して、骨コラーゲンの炭素・窒素同位体比を測定した。エナメル質炭酸塩の分析は、地球研(京都)への出張をともなうため、延期した。
- 埋葬されたイノシシ3点をふくむ縄文時代のイノシシ31点、動物骨109点をで炭素・窒素同位体比を測定した。少数であるが給餌された可能性のある個体を見出した。
- エナメル質のけるSr同位体比の高精度測定について、東京大学理学部地殻化学研究室と共同で、高精度測定の条件検討を実施した。
藤田 尚
研究活動の概要
2020年度は、千葉県を中心とする関東圏での縄文人骨の先天性異常について調査する予定であった。
しかし、2月以降、新型コロナウイルスの蔓延に伴って、リモート授業を強いられ、大学等研究機関での調査もままならない事態となった。
その様な状況下で、古人骨を調査する機会を得ることが出来なかったのは残念であるが、致し方ないことであるので、同様の研究を次年度(2021年度)へ延期することとなった。一方、寄生虫卵の件については、既に土壌を採取していた、萩平遺跡(愛知県、縄文早期)の分析を完了し、現在報告書の刊行を待つ状況となっている。研究の中心である千葉県とは遠隔した遺跡ではあるが、福島県前田遺跡はじめ、多くの遺跡を研究の対象にすることには、一定の意義があると思われる。研究環境としては、本務校の新潟県立看護大学(10月1日より同志社大学研究開発推進機構に顕微鏡他諸装置を配備した他、東京大学理学系研究科においても、全く同様の研究が行える状況を形成している。新型コロナウイルスの蔓延の収束には、今しばらく時間が必要と考え、次年度は、工夫をして研究環境・研究実施の体制を確保する予定である