ごあいさつ

 この度、2018年度文部省科学研究費(基盤A)の採択を得て、「縄文時代の氏族制社会の成立に関する考古学と集団遺伝学の共同研究」を実施することになりました。今までに考古学と自然科学の学際的共同研究は多くあったと思いますが、考古学とゲノム研究の共同研究はまだ少ない部類だと思います。

 今回、研究課題として取り上げるのは、縄文中期の環状集落の解体に端を発する後期社会への移行と後期社会成立のプロセスについてです。この課題は、縄文時代の考古学でも最も古くから関心をもって論議されてきた課題でした。なぜ大規模な環状集落が形成されたのか、またそれが中期終末に解体していくのかについて、いまだに明確な解答は得られていません。気候変動説や集落環境悪化説など、いわば外部環境要因との関わりで説明する論理が多く見られますが、気候環境などの外部変動要因が、どのように人間社会に影響を及ぼして、そのために社会基盤のどの部分がどのように変化して後期社会に至ったのかは、説明できておりません。本研究は、そのような社会基盤内部に惹き起こされた現象を把握し、その直接の変動要因を社会内部の要因、特に1.親族構造の変化、2.出自制度の変革、3.婚姻制度の視点で探ることを直接の目的に据えております。
考古学的な検討により、1,3はある程度言及されてきました。集落、墓坑遺構のあり方から言及が可能です。また先祖祭祀や分節組織に関わる遺構・遺物の急増からそれに言及する論調も目立ってきました。それらと密接に連動する現象でありながらも、3.婚姻制度を巡る問題は解明の端緒すら得られておりません。

 今回の研究課題で中心解題として取り上げた「縄文時代の氏族制」は、分節組織(クラン)の成立と、それに制度的に内包される外婚制度への変革が重要な変動要因と見なしておりますが、考古学研究とDNAレベルの解析でどこまで明らかにできるかを問うものです。併せて、集落に居住する人々の移動や特殊な動物のあり方が食性の上でどのように反映するのか、また中期からどのように変化するのかは、後期社会の解明に直接光を当てることになります。また人骨資料などにみられる遺伝性の病変や疾患など古病理の研究により、中期、後期の縄文人たちがどのようなストレスのもとで生活していたのかを明らかにします。それらの証拠は縄文中期から後期への社会変動に際して、直接その影響を蒙った人々の姿を鮮明に語ってくれるに違いありません。目には見えにくい社会の中で一体何が起こっていたのか、本研究の目的の一つはまさにそれを明らかにすることです。

 研究代表者と3名の研究分担者は、関東地方の一地域を集中的に取り上げて、調査研究を実施する計画です。また多くの研究協力者の皆様に様々な形で専門知識や技術を提供いただいております。

 人骨資料につきましては、既にいくつかの市町村および研究機関から資料提供を受け、ご協力をいただいております。深く感謝申し上げるところです。

これからもさらに多くの行政機関、研究機関、研究者の皆様からご協力を仰ぎたいと願っております。

研究代表者 早稲田大学文学学術院教授 高橋龍三郎 

kakenhi

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