2019年度の研究計画

高橋 龍三郎

研究代表者として次の項目について調査検討する。

  1. 2018年度は千葉市内の遺跡群、特に市原市の祇園原貝塚、西広貝塚の人骨資料について、DNA解析、食性分析を実施したので、2019年度以降の調査では、その範囲を拡大して千葉市や船橋市、茂原市などの資料が解析できるよう、全県的な視野で調査する。
  2. 毎年研究会を開催し、代表者および3名の研究分担者から各分野の研究の進捗状況を報告してもらい、調査研究の方向性を確認し、今後の研究の見通しを得る。またその成果物を発信する。
  3. 考古学的に把握される物質文化を集成分析し、そこに反映した事実関係を単系出自社会とのコンテクストで解明できるか、検討する。2018年度には土偶の胎土分析を実施したので、それらの属性が単系出自社会、母系制社会との脈絡で何らかの解明ができるか、検討する。
  4. 後期社会の生業活動に関して、専門家に聞き取り調査を実施する。特に東京湾を中心に、貝塚に残された魚骨資料の専門家から聞き取り調査を実施する予定である。また最近注目を浴びている植物栽培研究の状況について、専門的知識を聴き取る予定である。
  5. 後期社会の祖型となる中期社会の解明に向けて、特に埼玉県、群馬県、長野県、山梨県などの諸県に収蔵される中期土器群を観察し、トリ形突起やイノシシ形突起などの、表象的表現について後期のトーテミズムとの関連について検討する。これは中期後半期に始まる社会変動の過程で、それらの表徴が社会集団としての意味を持ち始めると判断されるからである。
  6. 縄文後期社会の大型住居、土盛り遺構などの性格を把握するために、出土する特殊な遺物(異形台付土器、手燭形土製品、動物形土製品、土製耳飾り、石棒)などを集成し、検討する。
  7. 後期の儀礼、祭祀が先祖祭祀と密接に関係することは、氏族社会の成立と緊密に結びついた理論的背景を持つので、考古学的事実関係から、それを具体的に実証できる事例を探し出し、検討する。

太田 博樹

NGSライブラリについてよりハイスペックなIllumina 社NovaSeqによるdeep sequencingをおこない全ゲノムのドラフト配列決定(1.0-foldカバレッジ以上)をめざします。それらのデータをもちいて古人骨の集団ゲノム解析をおこない、同時代の2つの遺跡の集団構造の違いや共通性について考察します。


米田 穣

西広遺跡に引き続き、京葉地方を中心に縄文時代後期から晩期についての人骨で、炭素・窒素同位体比ならびに放射性炭素年代を測定することによって、縄文時代後半期における社会複雑化の実態について検討する。また、歯エナメル質のストロンチウム同位体比について、迅速測定法の検討を開始する。


藤田 尚

古人骨の形態学的(骨格および歯)の形態異常が遺伝性疾患にもとづくかどうか、主として形態学・古病理学の面から研究を進め縄文時代中期までとそれ以降での出現頻度に差があるかどうか、ある疾患が見られることはどのように氏族社会が変化したのかを解く重要なカギとなりうるので、積極的に進めていく。また、過去の社会あるいは現代の発展途上国における寄生虫症による死亡率は、非常に多く、縄文人も寄生虫症による死亡率は高かったのではないかと想像できる。寄生虫の種の同定から1歩進めて、その寄生虫症の病態まで踏み込んで、どのような疾患とその病態を呈していたか、研究を進める。

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